ターゲティングは営業プロセスの中でも非常に重要な項目です。特に、アウトバウンド営業を行う際には、その成果に直結する最も重要な要因の一つです。ターゲティングがなぜ重要か、そしてどのようなターゲティングを行うべきか、使用するツールなども交えながら説明していきます。
ターゲティングの重要性
ターゲティングが重要である理由は、ターゲティングを行うことで、仮説検証がスピーディーに進み、目標達成に向けた最適な道筋を効率的に見つけることができるからです。営業においても、目標とする成果を迅速かつ効率的に達成するためには、ターゲティングが欠かせません。
自社のサービスや商品の特性に基づき、どの業界、どの企業、どの組織、そしてどんな人々が自社の商品を購入する可能性が高いかを見極めることが、成果を上げるための第一歩です。
自社の商材が高額(年間数百万円から数千万円)である場合、その金額を支払える企業は資本力のある大企業や、キャッシュフローに余裕のある中堅企業に限られることが多いです。逆に、商材単価が低い場合は中小企業にも導入の可能性が広がりますが、工数や導入プロセスの難易度は大企業とあまり変わらない場合もあります。
既存顧客のインタビューによる強みの把握
既存顧客で受注した企業がある場合、その企業にインタビューを行うことで、競合他社と比較してどの点を評価し、自社のどの部分が強みとされているのかを把握することができます。こうしたフィードバックをもとに、他のターゲット企業にも同様のアプローチを展開し、取引先を拡大することが可能です。このようなアプローチは、自社の強みを具体的に把握し、他の見込み顧客にもそれを訴求するための効果的な手法です。
名のある企業が導入を決定すれば、他の大企業もその事例を参考に購入を検討しやすくなります。購買サイドからすれば、失敗を避けるために、実績が豊富な企業を選ぶ傾向があります。サービス提供側はこの心理を理解し、名のある企業にサービスを導入することが、他の優良顧客を引き寄せる重要な要素であることを十分に認識する必要があります。まずは、代表的な顧客(センターピン)をターゲットに定め、その攻略を優先することが成功の鍵となります。
効果的なターゲティング方法
ターゲティングの際、優良顧客とはどのような企業なのかを明確にすることが重要です。私の経験では、まず自社の商材を導入できるだけの企業体力があるか、そしてその企業で横展開が可能かどうかを重視しています。この考え方は、1つの成功が複数の部署や関連会社に展開されるかどうかを見極め、効率的なリソースの配分に直結します。例えば、関係会社や子会社にまで導入が広がる可能性がある企業は、新規顧客獲得のために新たなリソースを使わず、継続的な取引を増やすことができる点が魅力です。
上場企業であれば、IR資料を活用し、バランスシートや業績トレンドを分析してその企業の状況を把握します。さらに、「ヒト」「モノ」「カネ」にどのような強みがあるかを理解することで、自社の商材がどのように役立つかを説明できるように準備します。仮説を立て、それに基づいて顧客にアプローチすることが成功へのカギです。1つのアプローチで複数の成果を得られる可能性を考慮し、戦略的に取り組むと良いでしょう
使用ツール
精度の高いターゲティングを行うには、サポートツールの活用も重要です。私が過去に使っていた方法としては、無料や低価格の営業サポートツール、例えば会社四季報のオンライン版を活用し、上場企業のリサーチを行っていました。こうしたリサーチツールは、営業活動の基盤を強化し、顧客に対する理解を深める助けとなります。
最近では、ABMツールを使ってタイミングよくアプローチする方法も一般的です。ABMツールは、特定のターゲット企業に対してパーソナライズされたアプローチを可能にし、営業とマーケティングを統合的にサポートします。ただし、導入費用については安価ではないため、その費用対効果を踏まえて、まずはミニマムでスタートするのが良いでしょう。
ターゲティングのKPI設定
ターゲティングの効果を測るためには、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することが欠かせません。適切なKPIを設定することで、ターゲティングがどの程度成果に結びついているかを評価し、改善の方向性を見出すことができます。
例えば、以下のようなKPIを設定すると良いでしょう。
・リード獲得率:ターゲットリストから実際にリードを獲得できた割合を測定します。
・商談化率:獲得したリードが商談に進展した割合を示します。
・コンバージョン率:商談が成約に至る確率を測定し、ターゲティングの質を評価します。
これらのKPIを定期的に見直すことで、ターゲティングの精度やアプローチの効果を把握し、営業活動の改善に繋げることができます。
リサーチ方法の詳細
ターゲティングの精度を高めるためには、正確なリサーチが必要です。日本では、会社四季報やIR情報などが一般的なリサーチツールとして利用されており、これらを活用して企業の財務状況や成長性を把握します。また、ABMツールも活用することで、より詳細な企業データを入手し、精度の高いターゲティングが可能になります。
日本でも様々なABMツールが提供されており、特にB2Bマーケティングで広く利用されています。これらのツールは、特定の企業に対するパーソナライズされた情報を提供し、企業ごとのニーズに合わせたアプローチが可能です。また、これらのツールはCRMやSFAと連携しており、営業活動の一貫性を保ちながらリードを効率的に管理することができます。
さらに、無料ツールや簡易リサーチ方法も効果的です。たとえば、プレスリリースやSNS、業界ニュースを活用して、ターゲット企業の動向や市場トレンドを把握することができます。これにより、より柔軟かつ迅速に仮説を立て、営業活動を行うことが可能です。
ターゲティングが成功した事例
では、実際にターゲティングに成功した事例を紹介していきましょう。弊社で過去支援していたスポーツチームのスポンサーシップ獲得案件での事例を共有します。
某スポーツチームでは、スポンサーシップの商材としてユニフォームやゴール裏など、様々な広告枠を販売しています。スポンサーシップという商材は、販売金額に応じてクラブが保有している様々な権利が異なることが特徴です。販売単価は数百万円から数千万円/年となります。
A担当者は、新規担当者として新規先をリサーチしていました。担当者はまず、スポーツ商材や自社の強み(ブランド、ネットワーク、歴史、人的リソース)を整理しました。そして以下のように自社の特徴をまとめました。
・スポーツは「人の感情を動かす特徴がある」
・チームの活動の一環として「健康やアンチエイジングに対して普及活動を行っている」
・エリア的に首都圏在住で、ターゲットへの訴求力が高い
これらの特徴を基に、健康やアンチエイジングに関連する商品やサービスを提供している企業がスポンサーシップを結ぶことで、その商品をチームの持つ資産を活用して、多くの人に届けられるのではないかと仮説を立てました。そこで、候補となる業界や会社をリストアップしていきました。
例えば、健康的なおやつとして「魚を使った商品」や「ナッツ・アーモンド」に関連する企業を調べたり、「生命保険会社がウォーキングイベントを開催している」という情報を元にコンタクトを試みるなど、仮説検証を進めていきました。
さらに、「自分はお酒が飲めない」という視点から「ノンアルコールビール」に注目しました。世の中でもノンアルコール飲料が流行していることを背景に、ノンアルコールビールメーカーをリサーチし、実際にいくつかの商品を試飲してみました。
特に美味しいと感じたあるメーカーに対して、次のような話をしつつ、提案を行いました。
・「ノンアルコールビールなのに非常に美味しかったこと」
・「水やホップ、酵母で作られており、アミノ酸が豊富でアスリート向けの商品であること」
・「お酒が飲めないスポーツファンにこの商品を知ってもらいたいこと」
・「自チームの広告媒体であるスタジアム広告に商品ロゴを掲載すること、売店での商品販売、ファン向けにメールマガジンやSNSでのキャンペーンの実施」
このようにスポンサーシップを提案したところ、先方もスポーツ愛好家に自社の商品を届けたいという思いがあり、話はスムーズに進みました。結果的に、提案から1ヶ月程度で受注に繋がりました。
担当者は、たまたま受注したのでしょうか?私はそう思いません。担当者は、仮説検証を迅速に行う習慣が身についており、そのため成功確率が高かったのだと思います。また、日頃からトレンドをメディアやメルマガで収集し、どのような流行が起きているかを理解している点も強みです。さらに、自ら商品を試飲するなど、探究心が旺盛であることが大きな成功要因の一つです。
担当者は顧客の立場に立ち、商品を「多くの人に届けたい」と感じて行動していたのです。このような情熱を持って営業する担当者を嫌がる企業はないでしょう。もし私がその企業の担当者であれば、担当者を自社に引き抜きたいとさえ思ったかもしれません。
終わりに
では、これは真似できないことでしょうか?私はそうは思いません。
・自社のポジショニングや、商材の特性を理解すること
・その商材がどの業界や企業に導入されると良いか考えること
・仮説検証した企業に問い合わせを行うこと
・可能な範囲で自分が商品を試してみたり、その感想を伝えてコンタクトを取ること
・日頃から世の中のトレンドやニュースに関心を持ち、積極的に情報を収集したり試すこと
これらの行動はそれほど難しくはないはずです。ぜひ、成功のための習慣として取り入れてみてください。